珈琲タイム

幻の句集

突然ですが、こちらは句集です。
1981年(昭和56)発行の、その名も『現代川柳百人一句集』。


 
ぱかっと開くと、



中には色紙が。
はい。こちら当時の気鋭、実力派の川柳家100名による自選自筆の一句に
無形文化財の工芸家、故・小野為郎さんが水彩画を添え、
100枚の色紙に仕上げた大変贅沢で美しい色紙集です。
ちなみに色紙のサイズは縦19cm、横14cm。

川柳六大家が相次いで亡くなって10年ほど経った頃、
柳都川柳社(本部・新潟市)が「川柳界の盛り上げを図って」発行。
100名は主幹の大野風柳さん(全日本川柳協会理事長)が選考されました。

先般、あることから川柳家の墨作二郎さんのご厚意で譲り受けたのですが、
なにしろ約500部の限定版。
今では「関係者ですらほとんど目にする機会がない幻の句集」であると、
情報をキャッチした山陽新聞社さんが
先月さっそく記事で大きく取り上げてくださいました。
ネットニュースでもアップされまして、こちらです。
http://www.sanyonews.jp/article/201507/1/

作品の一部をご紹介しますと

  蟹の目に二つの冬の海がある     大野風柳
  こおろぎのように泣けたら涅槃かな  橘高薫風
  火柱やかえるところのない夫婦    河野春三
  火の好きな羊と長い旅に発つ     定金冬二
  雪は愛白いまつりが降りてくる    墨 作二郎
  裏切りや蝶一片の彩となる      寺尾俊平
  ため息の中に多彩な男棲む      森中惠美子

そして新子先生の一句。



  傷つけてその夕焼を愉しまむ     時実新子

まだ句集『有夫恋』が出る前でした。
でも懐かしい筆跡です。

現代川柳史の資料という点からみてもさまざまに興味深い句集。
ここからまたなにかわかったら
こちらに随時アップさせていただきますね。
 

新子花ごよみ #19


一斉に包丁鳴らす反戦歌   新子




戦後70年の夏。
「新子花ごよみ」、今回は特別編としてこの1句を選びました。

 一九四五・八・一五。
 「敗戦のあの日を抜きにして私の生はない」
 と語っていた新子さん。
 多感な少女時代に戦争を体験したからか、
 新子さんはまだうんと若いときからよく死を詠んでいる。

   (『わが母 時実新子ー母からのラブレター』安藤まどか
     /実業之日本社 2013年)

十代半ばの時実新子、
岡山にて将来は医学を志しつつも学徒動員。
その学校も空襲で焼失、さらには
昭和20年8月6日、広島に原爆が投下された直後より
広島から岡山へ避難してくる多数の被害者を目の当たりにしたといいます。
そして8月15日。
曰く「あれは終戦ではなく、敗戦である」。

終生戦争を憎み、平和を希んだ時実新子は、
その思いを折にふれ句に詠み、エッセイにも書きました。

掲句は1981年(昭和56)の作です。
エプロンをかけた妻たち、母たちが手に手に包丁を持ち、
一体なにを始めるのかと思えば
一斉にまな板叩いて「反戦歌」とは驚きです。
けれど黙っていればまた戦をやりかねない男たちに対して
なにかせずにはいられない。
そんな台所発のささやかな抵抗は、
しかし次第に大きな、強烈なうねりとなって
平成27年の今日へも押し寄せてくるようです。

 
(『時実新子全句集』/大巧社)
 

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プロフィール


芳賀博子
「時実新子の川柳大学」元会員。
初代管理人・望月こりんさんより引き継ぎ、2014年2月より担当。
ゆに代表。
https://uni575.com

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